このサイトについて

このサイトは「株式会社うみねこカンパニー」がドローン(主にボート)に使っている技術や日々の出来事について備忘録として綴っています。
現在(2023年)、ドローンボートについては日本で唯一の技術ブログのようです。

ドローンに使う技術は電子機器製品としては類を見ない広い範囲かつ、高度です。

  • ロボティクス(PID制御)
  • 機体の構造、耐水
  • モーターの高電流処理
  • 組み込みハードウェア(フライトコントローラー, Raspberry Pi, ESP32)
  • プログラミング(Rua script, Python, Javascript, Linux, Windows)
  • 通信 (シリアル, TCP/IP、無線)
  • 航行技術(GPS、EKF、ベクトル, LIADR)
  • 3Dプリンター(CAD、スライサー)
  • 法的規制、地域との合意形成
  • グローバルスタンダード(英語)
  • その他、センサー使用、通信、記録(カメラ、音響センサーなど)

などなど。

サーバー、インターネット、パソコンさえあればビジネス可能な世界よりも難易度はとても高いです。

我々はドローンのコントロールに、基本的にオープンソースのArdupilotを使っていますし、正式パートナーなので、Ardupilotコミュニティからサポートを受けています。
これは我々の立場を明らかにするために大事なことです。
ArdupilotはGithub上で開発され、世界中の人達が開発にたずさわっています。
クローズドなドローンメーカーに勝るとも劣らない規模で先進性と信頼性を確立しています。
日本のドローンメーカーで発表される機能はほとんどすでにArdupilotには実装され、場合によっては数年経っていることがよくあります。

少しだけ、なぜ我々はオープンソース路線を取るのかを説明させてください。

技術の進歩は企業が秘密裏に行う方法と、学会やオープンソースのようにお互いの発見を教え合いながら進める方法があります。

特にコンピュータープログラムについては、長い間議論がありました。古くはIBMメインフレームOS、Sun MicrosystemsのSolaris, MicrosoftのWindows、リレーショナルデータベースなどがあり、それぞれの企業が秘密裏に作った製品です。
一方に、GNUから始まったオープンソースがあり、Unixに端を発するLinuxでこの議論は終止符を打ったと私は思っています。

もともとLinuxはたしかにリーナス・トーバルズが1人で最初のカーネルを書きました。しかし、彼の本当の天才ぶりはカーネルを書いたことではなく、同時にGitというソースコード管理システムを作り、誰もが開発に参加することを可能にしたソフトウェアエンジニアリングの革命を起こしたことにあります。
Linuxが世の中で知られて有名な論文が出ました「伽藍とバザール」。
従来、ソフトウェアはトップダウンの伽藍方式でしか作れないと考えられていたところに、バザール方式の誰もが参加できる方式で作ることができる、とLinuxが立証したのでした。

これにより、例えばUnixカーネルのことはよく知らないけれど、USBのプロトコルについてはよく知ってるよ、という人が気軽に開発に参加できるようになったのです。
インターネットの発展がそれを加速したことは言うまでもありません。

しかし、ことソフトウェアに関していえば、資本主義秘密方式はあまりうまくいかないことが歴史上、わかっています。
パソコンが広まって久しいですが、Windows以前には多くの日本企業がソフトウェアを作って売っていました。現在は一社も残っていません。

なぜでしょうか?
理由は技術の進歩と市場にあります。
ソフトウェアは毎年のように機能を追加することで、魅力を維持し業界についていかねばなりません。通称、バージョンアップといいます。
当然、ソフトウェア内部は複雑になります。複雑になるのに、初期ほどのユーザー数をバージョンアップではマーケットから集められません。
さらに儲かる(=需要がある)ソフトウェアならば類似のものを作る人が必ず世界中から出てくるからです。
マーケットを広げるためには、より広い市場、つまり英語圏に出ていくしかないのです。
さらに誰もに使ってもらうためには、エコ・システム(環境)を作ることになります。

日本企業で自社の開発したソフトウェアを海外まで展開して成功したのは、ゲームだけです。そのゲームもSONYと任天堂のエコシステムがなければ世界的ビジネスとなることは、難しかったのではないでしょうか。

世界的にもいまやメインフレームは消え去ろうとし、SunMicroSystemsはOracleに買収され、データベースはオープンソースかGoogleのインフラに吸収され、Microsoftはエコ・システムを作ることに成功しサービス企業に生まれ変わりました。
世界的ソフトウェア企業ですら、立ち行かなくなっています。
インターネットの世界を動かしている勝者は会社の所有物ではないLinuxです。

さらにソフトウェアは複雑に組み合わされています。
トヨタ自動車がコネクティッドについてはオープンソース戦略を取るのも、自社だけで開発することは体力とスピードから無理だと判断したからです。
これが2023年の現状です。

ソフトウェアは世界的にマーケットをもつものが生き残るのです。
長年、外資系ソフトウェア企業で働きつづけてきた私は、以上の見解からバザール形式の世界(オープンソース)で使われているデ・ファクトを選択し、その上で業務をやっていくと決めました。

日本でクローズな世界で限られた予算で優秀なプログラマーも雇えずにオープンソースを横目に独自にドローンの制御ソフトを作っていても、世界に伍していけるはずはないと考えています。
Ardupilotのデベロッパー達も「ひとりでは絶対に無理だ」と言っています。
とくにドローン制御ソフトは上記にあげたように、必要な知識も組み合わせも多いのです。

ユーザーが増えれば増えるほど、機能が増え堅牢になっていくオープンソースの特性をフルに活かしていきます。現在、Ardupilotは月に1000回以上のフライトテストがデベロッパー達により行われているのです。

おそらくインターネットによる「知の共有」は加速していき、一企業が秘密を囲うことで儲けようとするビジネスモデルはよほど強固に特許に守られる特殊な産業に限られていくでしょう。

ささやかながら私達も技術的な発見をこのようにブログで公開したり、Githubで共有するようにしています。

多くの人が水上ドローンに興味をもち、日本の漁業に関心をもってくれたらとてもうれしいです。

筆者は千葉でプログラムコードを書き単体テストをしています。鎌倉で3Dプリンターでパーツの制作をし、テストのために江戸川界隈をうろつき、製品の仕様や試用を漁師と一緒に石巻の蛤浜でやっています。
ノマドかもしれません。

記事は書き流しではなく、タイトルのところには情報を集め、間違いは訂正したり書き改めたりしています。自分達がやった手順の備忘録(バックアップ)でもあります。

7月の雨の中、蛤浜漁港での運行テスト状況です。

2023年7月

株式会社 うみねこカンパニー

タイトルとURLをコピーしました